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木々のない場所で降る雨は、中々に強敵だ。
(でもやっぱり、雨は嫌えない)
霧雨のように降りしきる雫の中を、アリムは急ぎ足で駆けていた。
向かう先はゼーレの町外れにあるとある店。雨が降ろうと降るまいと人気がないその地区は、雨の中でどんよりとした重い空気をまとっている。まだ十代半ばにも達していない、子供である彼がこんなところをうろついていると知ったら、町の大人たちは本来眉をひそめなければいけない。そういう空気だ。
ただ、そんな雰囲気も慣れれば特別不気味なものではなかった。ひと月この辺りに通い続けたアリムには、この地区特有の重さがだんだん別のものに見えてきたのだ。
つまり、誰も友達が訪ねてきてくれずに意気消沈している子供のようなものに。
無人の通りを静かな雨音と、それを乱すアリムの軽い足音だけが響く。
時々フードの陰から空の様子を確かめるその目は、まだあどけなさを残す朗らかな茶色。胸に荷物を抱き、小柄な体で雨の下を潜り抜ける。
やがて目当ての店が少年の視界に入った。
この辺りでもっとも目立つ赤い屋根は、この暗い地区のまるで中心にいるかのように、威風堂々とそこに鎮座している。
「こんにちはーっ……あれ?」
店のドアを開けたアリムは、きょとんと目をしばたいた。
「誰もいない……?」
『ゼルトザム・フェー』は自称精霊具店だ。
店内は使いどころに首をかしげる怪しい品物で雑然としているものの、人がいたら見逃すことはない。視界を塞ぐようなレイアウトはされておらず、そもそも一目で全体を見渡せそうなくらい小さな店である。
いつもなら店の奥のカウンター(らしきもの)で、緑の髪の青年が読書している。入ってきたアリムに目を向けることもなく、声をかけたときのみ「あー」とか唸り声にしか聞こえない返事をくれる。アリムは気にせず自分の荷物をカウンター内に置かせてもらってから、すぐに店の商品の整理整頓にかかる。それがここひと月ほどの習慣だ。
アリムはドアを閉めながら、念のため名前を呼んだ。
「トリバーさん。トリバーさん? フロリデさーんっ……二人ともいないのかな」
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