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まだまだ吹っ切れたとは言えない。
自分がこれからどうしたらいいのか、明確な答えは見つからない
行く先のおぼつかないアリムがそれでも笑っていられるのは、笑いの絶えない平凡な毎日のおかげだった。アリムを養子にしてくれたエウティス伯母も、アークも、トリバーも、さらにはフロリデも、特殊な生まれのアリムを当たり前のように受け入れてくれたから。
「雨、まだ止んでないのかィ?」
「え? あ、はい、まだ降ってます。きっと一日中降ると思います。今日は雪にまではならないんじゃないかって、パン屋のおじさんが言ってましたけど」
フロリデは億劫そうな顔で腕を組み、ドアを開けたまま横の壁にもたれた。
アリムは恐る恐る尋ねてみた。
「あの……雨、お嫌いですか?」
「ん? ああ、アタシはねえ……まあ髪が濡れるから好きじゃアないけど。何より雨が降るとトリバーが動かないンだよねェ。ただでさえの短気が、天気が悪いとそりゃァもう凶暴になるから。体動かさないクセに口だけひたすら回るようになるからねェ。そう言えば去年珍しく大雨だった日に精霊保護協会の人間がうちに怒鳴り込みに来たンだけど、トリバーが二十分にも渡る長広舌で追い返したっけ。ちなみにその二十分間の中に『面倒くさい』は実に二十七回言ったンだよ、大したもンだろ?」
……二十七回を数えたこの店主も大概だとアリムは思ったがとりあえず口には出さない。
「でも、トリバーさん今用事に出てるんじゃないんですか?」
まあね、とフロリデは言った。
「でもアタシが用を言いつけたわけじゃない。自分の用事で出ていったンだよ」
アリムは驚いた。あの青年に、本を読む以外の自分の用事があったのか!
フロリデは急にふふっと口元で笑った。機嫌の好さそうな笑みだ。
理由が分からず、アリムは戸惑った声を出した。
「あの……?」
「ああ、ごめんよ。――トリバーなら今頃花屋なりなんなりを渡り歩いてるはずサ。ま、じきに戻ってくるだろ」
「花屋……?」
「ところでアリム」
ふと真顔になり、フロリデはアリムを見下ろした。「アンタ、以前は精霊保護協会に出入りしてたンだよね?」
「――――」
咄嗟に返事ができず、アリムはしどろもどろでフロリデを見つめ返した。
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