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南から吹く潮風と潮騒の音が心地よく島を包み込む。水面は穏やかに波打ち、陽光を鏡のように照らし返している。何十年と暮らしている島の住人達にとってはすでに見慣れた光景だが、その住人達の誰もが、その平和な海があり続けるのは『海の巫女』たるセアのお陰であると信じて疑わなかった。
さて、そのセアは今島を一望できる岬に立っていた。海と島とを同時に見渡せるその場所は海の信託を聞くのに最適であると、古くから言い伝えで残されているからである。
セアは青い長髪を潮風に靡かせながら、櫂を模した杖を横に持ち、目を臥せる。普段は儚げな印象を受ける彼女も、神事の時は神々しく見えるというのは住人の話。
数分に及んで黙祷すると、セアがゆっくりと目を開けた。そして先程まで自分が祈りを捧げていた海を見つめ…深く、息をついた。
「…ふぅ」
「よっ、精が出るな。セア」
「わぁっ!?」
そして背後から突然聞こえた男の声に、飛び上がらんばかりに驚いた。
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