【F】水平線の先に祈りを

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後ろに立っていたのは漁師の男だった。青年と言うには少し歳上だが、まだ中年と言うには若い、小麦色の肌の男。漁による日焼けだと一目でわかる、まさに海の男である。 「だっはっは、そんなに驚くこたぁねえだろ。…ほれ、こいつは土産だ。お供えにでもしてくれ」 そしてまだ海水の雫が滴る網をセアに向かって突き出す。その中には、鯛くらいの大きさの一匹の魚が酸素を求めて口をパクパクさせていた。 「あ、ありがとうございます。いつもいつも…」 「良いってことよ。俺達がこうして無事に漁が出来るのも、お前さんが熱心に海に祈りを捧げてくれてるおかげなんだからよ」 気前よくそう言いつつ、セアの横に立つように岬の先端に足をかける。 「…でもよ。信心深いのは感心だが、そんな毎日毎日神事やってて大丈夫なのかよ?たまに休んだって、神様は別に怒りゃしねえだろ」 「そうはいきません。日々の信仰の積み重ねが神々の奇跡を呼び込む糧となるのであって、それが巫女の役目ですから」 「真面目なこった」 石碑の前に魚を置き、セアに背を向けて男は立ち去ろうとした。そして去り際に、もう一言付け加える。 「…まさかお前、まだアングのことを」 「……」 「…すまねぇ、軽率だった」 背中を向けたまま謝罪した彼は網を威勢よく肩にかけ、村に続く道を歩いていった。
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