【F】水平線の先に祈りを

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セアには竹馬の友がいた。名前は『アング』。彼女が本格的な巫女の訓練を始めるよりもずっと前から仲が大変よく、いつも一緒に遊んでいた。黒髪で健康的な褐色の肌の少年で、彼もまた漁師の子供であった。 ある日のこと、アングといつものように遊んでいたセアにアングはこう打ち明けたのだった。 「セア…おれ、しばらくお前と遊べないかも」 「えっ?どうして?」 「一人前の漁師になるための試練だよ。大物を捕まえて、絶対父ちゃん達をぎゃふんと言わせてやるんだっ」 「それは、知ってるけど…」 この島にはある風習があった。それは、一人で漁に出て大物を釣ってこなければ一人前の漁師として認めて貰えないというものである。ましてやアングの生家は高名な漁師の家だったため、そのしきたりも人一倍厳しく伝承されていたのであった。 「でも、それでどうしてしばらく遊べないってことになるの?近場でもいいと思うんだけど…」 「ばっか、その辺で釣れる雑魚なんて釣っても何も得しないよ。おれは『嵐の海域(メイルシュトローム)』に行くんだ」 「めっ…!?無茶だよアング!死んじゃうよぉ!」 『嵐の海域(メイルシュトローム)』。その島では知らない者はいないほどの穴場の海域である。独自の生態系が形成されているという噂があり、多くの手練れの漁師がその海域へと突入していった。しかし、その海域は気候が年中安定せず、ほぼ毎日のように竜巻や渦潮が発生する恐怖の海域。そこへ向かった船はもれなく木端微塵となって、島の海岸に漂着していた。 そんな死の領域と言っても過言ではない場所へと、少年は行こうとしているのだ。まだ人生経験の少ないセアだったが、これは止めなくちゃいけないと強く感じていた。
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