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「ええと、つまり?その要素を抜いたらどうなるのかを考えるってこと?」
「そういうこった。理屈でいけば、シンプルかつ斬新なプロットが見えてくるはずだぜ」
白い文字の下に赤いチョークで線を引く。俺がつまらないと、マンネリだと思った点を改めれば、きっと最上の物語が作れるはずだ。
「つまり…こうだな」
そして俺は口を開く。理想のラノベを作るための第一歩を踏み出すために。
「主人公は一人っ子で女運が皆無、学校は男子生徒の方が圧倒的に多く、男だらけでむさい生徒会は微塵も権力を持っていない。学校が終われば特に何の部活も入っていない彼は家に直帰し、飯喰って寝るを淡々と繰り返す。そんな日常を淡々と描く物語ー…。」
生徒会室が沈黙に包まれる。…この連帯感。どうやら俺達四人は、皆同じ意見を持ったようだ。
「先輩」
「言うな、須仁佳ちゃん。俺も…いや、富士見と会長もきっと同じことを言いたいと思う」
「うん…。なんて言うか、読んでたら物凄く暗い気分になりそうね」
「平凡な高校生以下だよ、その日常…。残念とかそういうレベルじゃないと思うんだけど」
「…はい。それじゃ結論は出たわね」
パンパンと手を打ち鳴らす会長。
「ぶっ飛び過ぎな描写は考えものだけど、小説は非日常なことや現実ではあり得ないことを書くからこそ面白い。…これで納得した?来藤」
「…はい。数分前の俺を恥じます」
「よろしい。…はい、それじゃあこの話はこれでお仕舞い。さっさと会議始めるわよー!」
会長の鶴の一声で、ラノベ談義はお開きになった。…だが、俺は一つ確信したことがある。
この高校生活は、人生の長いスパンで見れば最も非日常的な出来事が連続する時期だろう。小説の中の学園生活を見て溜め息をつくような大人にならないように、俺はこの高校生活を全力で楽しみたい。この生徒会の素晴らしい仲間たちと共にー…。
「…事実は、小説より奇なり…ですね」
「何か言った?」
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