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「おっ…おい、吉野。
どないしたんや?」
慌てて吉野の肩を支えると
ポロポロと涙を溢れさせた吉野。
俯いて声を殺しながら
小さく震える肩に
どうしていいものか戸惑う。
先週の俺のせいやろか?
にしても、さっきまであんな
笑顔やったのに
いきなりこんなんなるんか?
グルグルと俺の頭の中に
浮かんでは消える思考。
せやけど、大切な後輩だけに
見て見ぬふりなんて出来へん。
「どないしたん?
泣いてたら分からんで
言いたい事あるなら
俺に言うてかまへんで」
なだめるように問いかけた言葉に
ようやく吉野が瞳を上げる。
と、同時にデザイン部のフロアで
エレベーターは止まって
ゆっくりと扉が開いてしもた。
さすがにこのまま、また
下まで降りる訳にも行かんし
俺は吉野の肩を支えて立たせ
エレベーターから降りて
自販機コーナーへと
吉野を導いた。
缶コーヒーをふたつ買って
ソファーで俯く吉野の膝に
それをポンと落としてから
俺も吉野の隣に腰かける。
「どないしたん。
話してみいや」
プルタブを起こしながら
穏やかに問いかけると
吉野は俯いたまま
ポツリと言葉を吐き出した。
「…セクハラ…」
「はぁっ?」
危うくコーヒーを
吹き出しそうになりながら
吉野を見つめると
また泣きそうな顔で
俺に訴えて来た。
「…セクハラ…されてるんです」
吉野の告白が、この先
まさか俺と美杏のようやく
繋がった思いを引き裂く
きっかけになるなんて
思いもしないまま
俺は吉野を見つめていた。
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