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仕事を終えて会社を出た俺は
駅に向かって歩く吉野の腕を掴んだ。
驚いて振り返った吉野の瞳は
やっぱりどこか怯えていて。
きっと腕を掴んだのが
倉本かと思ってビビったんやろ。
「…な…なんですか先輩?」
戸惑いながら聞いて来た吉野を
見下しながら俺はゆっくりと
吉野の不安な思いを包み込むように
優しく言葉を掛けてやる。
「なぁ吉野、
お前が我慢する必要はあらへん。
セクハラなんてする倉本は
最低なんやで?
そうやっていつもビクビクして
過ごしとったら仕事にも
影響出るやろ?」
「……………」
無言で俯く吉野の肩は、
やっぱり小さく震え出す。
美杏、すまん。
せやけど吉野は俺の大切な
たった一人の後輩やねん。
これは浮気とは、ちゃうからな。
心で美杏にそう語りかけてから
吉野に再び言葉を落とした。
「俺が倉本に話してやるで
一緒に来いや。
後輩が困っとるのに
見て見ぬふりなんて
俺には出来ん」
「…先輩…」
「それに俺は吉野の事を
めっちゃ傷つけたしな。
そのお詫びにもならへんやろけど、
何かしてあげたいと
思うくらいええやろ?」
じっと俺を見上げていた
吉野の瞳からポロポロと
涙の粒が零れ落ちて行く。
守ってあげな。
大切な後輩なんやから。
そう思いながら俺は
やんわりと笑みを落とした。
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