愛するがゆえの嘘

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思わず首を傾げた俺に 東雲部長はクスッと笑う。 「たぶん…美杏が 橋本に興味を持ち始めたのは 1年前のデザインコンペの 後からだよ。 香港に戻ってから 資料室でお前の作品を 片っ端から調べてた。 俺に何度も聞いて来たぞ。 この橋本ってプランナーは どうしてデザイナーに ならなかったんだって」 …なんやねんそれ。 だったら何で…もっと早くに その気持ちを伝えて くれへんかったんや。 そんな俺の気持ちを 全て悟っているかのように 東雲部長は再び言葉を紡ぐ。 「だけど美杏はさ… 小野部長を忘れなかったんじゃなく 自分の過去の傷から 歩み出すのが怖かったんだよ。 だから橋本が自分に暴力を 振るったりしない男なのか、 橋本が本当に自分を 好きでいてくれているのか、 それを確かめてからじゃなきゃ 歩み寄れなかったんだと思う」 「……………」 「お前はさ、その関西のノリで 軽い男に見られがちだろ。 サラッと言った事はあるだろうけど 真っ直ぐに美杏を見つめて 好きだって言った事、あるか?」 「…あらへん」 俺の返事に東雲部長は 呆れたように笑って 2本目のビールの プルタブを起こした。
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