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「千夏はまだ美杏に
橋本が吉野を抱こうと
した事は言ってないし
言うつもりはないってさ。
未遂で終わった事なら
美杏に伝える必要はない。
それくらいのズルさは
男なら持ってなきゃダメだ。
今、美杏を突き放したら
二度と取り戻せないぞ」
せやけど、それじゃ俺は…
その思いをやっと絞り出して
言葉に乗せた。
「…分かっとる。
せやけど…嘘をついてまで
美杏を手に入れて
俺は後悔せんのやろか?」
「男なら本当に大切な人を
守るための嘘くらい
つけるようになれよ、バカ」
コツンとビールの缶で
俺のおでこを突く東雲部長。
…大切な人を守るための嘘…?
「俺だって香織を守るためなら
どんな嘘だってつくぞ。
けれどそれは愛するがゆえの
嘘で騙している訳じゃない。
お前は千夏と小野部長のために
その嘘をついて
来たんじゃないのか?」
東雲部長の言葉は、
俺の胸にズシンと響いて来た。
愛するがゆえの嘘…。
そやった…。
あの時、俺は千夏のために
必死に自分に嘘をついて
小野部長の背中を押したんやった。
あの時の嘘と、
今回の事を美杏に話さないのは
同じ嘘になるんやろか…。
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