序章

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「そろそろ桜のシーズンだよね」 社員食堂でおもむろに典子(のりこ)が呟いた。 「まだですよね開花宣言。4月頭辺りかな?」 典子の隣で熊谷(くまがい)さんが言うと、私の横の三崎(みさき)さんも加わり、会話が盛り上がっていく。 「社員食堂からも少し見えますよね? 桜」 「でも愛でた気にならないじゃないですかぁ~! 4人で行きましょーよ、お花見」 「賛成! お弁当持って?」 「デパ地下の高級弁当買い込んで、ビール片手にだね」 「(たちばな)先輩、悪酔いしないで下さいよ」 「ビールじゃ酔わないわよ」 典子を中心に4人でいつものランチタイム。 楽しくて穏やかなこの時間は、私の大好きな時間の1つ。そう、それは間違いない。 いつもと変わらない日常を、私はテレビ画面を見るような感覚で見つめていた。 周囲は時刻を刻むのに、私だけが取り残されて動けない。 照らされる光は温かいのに、私の居る場所は真っ暗な部屋の一室のようで。 「美月(みつき)?」 典子が私の顔を心配そうに覗きこむ。 「ごめんごめん、聞いてるよ」 本当に? 典子の顔にはそう書いてある。きっと今、私は笑うのに失敗したんだろう。
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