沈黙

5/14
前へ
/14ページ
次へ
 「尻取り、して、貰え無いかな?」  『断られる事』も視野に入れて居たが、今夜此の店に彼女を呼び出した以上、後には引けなかった。  昔の様に、「尻取り遣ろう。うん、遣ろう」のノリで承諾してくれる程、彼女も、もう子供では無いのだ。  大人の店で尻取り勝負等と、店員や客からどんな目で見られるのかと思うと、恥ずかしいと言う気持ちも在るだろう。  僕も言うのは恥ずかしいのだが…。  然し、彼女から返って来た返事は意外なものだった。  「何か隠して無い?」  僕が普段しない様な事を唐突にしたものだから、何か隠し事でもして居るのかと察したのだろう。  僕は浮気や二股が出来る程、器用な人間では無い事は、彼女も恐らく知って居る筈だが、  黙って居ると、疑いが益々在らぬ方向に捻曲がってしまうので、  「い、いや、別に…」  と返答をした。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加