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桜井克彦36歳
6年前に結婚して5歳になる娘と2つ下の奥さんの3人で都内の住宅街に住んでいた。
克彦は外資系の会社に勤め、奥さんは専業主婦で奥さんの名前は和美。
そして克彦と和美の愛娘、七海。
克彦は今年から中期の海外出張が決まり、一月前からアメリカ、ニューヨークで独り暮らしをしていた。
パパと大の仲良しだった七海はパパが海外に行ってしまってから毎日泣いてばかり。
克彦が海外に行ってから1ヶ月が経ち、七海も漸く落ち着いてきた頃、克彦が仕事の都合で一時帰国する事になった。
しかしとんぼ返りの予定だった克彦は娘の七海には敢えて会わない様にと決めていた。会いたい気持ちは山々だったが、きっと会えばまた七海が辛くなると思ったからだ。
仕事の用事も済み、自宅に必要な物を取りにタクシーで向かった。
一応妻の和美には七海に気付かれないよう必要な物を玄関に用意して置いてもらうように伝えておいた。
タクシーが自宅に着くと玄関には妻と七海が待っていた。
妻の和美は別れが寂しくなってもやはり、七海にはパパに会わせてあげたくて七海にパパが帰って来る事を伝えていたのだ。
七海は克彦がタクシーを降りると同時に、泣きながら克彦の脚に抱きついて来た。
「パパ~!」
克彦は荷物を取って直ぐ戻る予定でいたので、タクシーの運転手にそう告げていた。
しかし泣きながらしがみつく娘の七海を見て、タクシーの運転手に代金を払いそのままタクシーを帰した。
「七海、パパ直ぐに戻らなきゃならないんだ。」
母親に聞いて分かっていたろう七海は泣きながら頷いた。
「でも、パパ今タクシー帰しちゃったからまた呼ばないと。」
「ちょっとだけだけど、タクシー来るまで一緒に居るよ。」
克彦は屈んで、七海の視線に自分の視線を合わせて頭を撫でながらそう言った。
パパの優しい笑顔が七海は大好きだった。
大人になった七海が…、結婚した夫にいつも微笑みながら話す大好きなパパの話。
「私、パパみたいな旦那さんが理想なのよ。」
七海の夫はそんな七海を見ながらこう言った。
「俺もそんな父親になりたいな。」
七海の膨らんだお腹をさすりながら…。
『完』
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