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渇き
森羅シャナン、シンラ・シャナン、シャナン!
三神加奈(みかみかな)は授業中もシャナンのことで頭が一杯だった。
あの夕暮れ以来、何も手につかなくなっていた。自分でもおかしいと思うくらいシャナンのことが頭から離れないのだ。
いとおしい、いいえ、違う。シャナンを欲している!
感情はブレーキがかからない、どうしようもないものだった。
何故、何が起こったの?
森羅さんとは廊下ですれ違ったことがあるだけなのに。
あの日、あの沈んだ青い瞳で見つめられてから狂ってしまった。
「加奈、オニヤマが呼んでる」
隣の席の悪友、岸村志麻(きしむらしま)が脇腹をつついた。
「え?」
そう言われ、はっと我に帰ったが、遅かった。
オニヤマ……鬼の山本先生が険しい目つきで加奈を見ていた。
「三神さん、先ほどから呼んでいるのが聞こえなかったのですか。最近おかしいですよ、彼氏のことでも考えていたのかしら? 廊下で少し頭を冷やしなさい」
教室中でクスクスと声を潜めて笑う声が洩れ聞こえてきた。
セクハラオニヤマ!
自分に男がいないからってそんな嫌味を言うな!
三神加奈は教室をのろのろと出て、ドア越しにオニヤマを睨みつけ、心の中でそう悪態を吐いた。
ああ、彼氏のことで悩むのならどんなによかったか。
一ヵ月ほど前に、加奈は他校の男子から告白されて、付き合い始めていた。
女子高にいる間は彼氏なんてできないと思っていた加奈は、二つ返事でOKしたのだ。
放課後になるとコンビニの前で待ち合わせ、一緒にぶらぶらと街を歩いたり、彼がサッカーの練習の時は、その日のたわいもない出来事をメールでやり取りしたりした。
友達に冷やかされながらも、それはとても充実した毎日だった。
それがあの日を境にすべてが変わってしまったのだ。
何をしてもつまらない、あんなに楽しかったのに。
彼氏といる時でさえ、このなんともいえない渇きは癒されなかった。
廊下にたたずみ、ふと窓から校庭に目をやると薄暗い空から雪が舞っていた。
あの日もこんな雪だったかな。
そう思った瞬間、フッと目の前が真っ白になり、体がゆっくりと倒れていくのがわかった。
教室から、誰かが駆け寄り三神さん、加奈、と呼ぶ声がしたが、それには応えることはできなかった。
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