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少し行くと、木々の間から古びた洋館が見えた。
それは和洋折衷の建物で、雪が屋根に重くのしかかり、長いツララが軒を連ねているような状態で、かなり傷んでいるようだった。
二人は洋館中央の支柱が二本並んでいる重厚なポーチにたどり着いた。
シャナンが重々しい両開きの扉を開けたとたん、ひんやりとした空気が加奈の頬を撫ぜた。
真冬のこの時期に、外より寒い家があるだろうかと、なにか異質なものをこの洋館に感じた加奈だったが、シャナンが「どうぞ」と、眼鏡越しにとろけるような笑みで、中に入ることを促したため、加奈のその不吉な感覚はさっとかき消えてしまった。
冷え冷えとした長い廊下は、人の気配どころか火の気が感じられなかった。
加奈は薄暗がりの廊下をシャナンの後について歩き、突き当たりの居間に通された。
正面に見える赤々と燃える暖炉が、唯一、人が住んでいることを証明しているように思えた。
そこは吹き抜けの高い天井で、暖炉を囲むようにして一人掛けの大きな椅子が二つと、三人掛けソファがおいてあった。
暖炉の反対側にはマホガニー製の、使い込まれて飴色になっているどっしりとしたサイドボードがある。
年代物のアンティーク家具のようだ。
ここは本当に日本なのだろうか。
英国のマナーハウスにでも紛れ込んだようだった。
加奈は気後れして居間の扉の横で立ち止まった。
「今お茶を淹れるわ。座っていてね」
そうシャナンに促されて、加奈はおずおずと一人掛けのソファに浅く腰掛けた。
シャナンがいない間、加奈は居心地が悪く、ぱちぱちとはぜる暖炉の薪をじっと眺めるしかなかった。
暖炉が近くて加奈の顔は炎の熱で熱くなった。
「お茶をどうぞ」
加奈は不意に背後から声をかけられ、どきりとした。
足音がしなかったため、シャナンが傍に来たのが全くわからなかったのだ。
シャナンは優雅な仕草で、サイドテーブルに紅茶を置いた。
一つ一つの仕草が絵になる。
うっとりと、つい見とれてしまう美しさ。
「あ、ありがとう」
加奈は場違いのところに来てしまったと後悔していた。
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