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山崎はるや
「加奈、最近どうかしたのか。メールも返事がこないし」
「ごめん、ちょっと体の調子が悪くて……」
携帯電話から聞こえてきた山崎はるやの声は、少し苛ついていた。
「昨日も会おうってメールしたんだけれど、携帯にもでないし」
「ごめんなさい、疲れて家に帰ったらそのまま眠ってしまったの」
「……俺、加奈の家にも電話かけて、おばさんがでたけれど、まだ帰っていませんって言われた」
「……」
「俺の他に、誰かいるのか?」
「違うわ」
「とにかく、会いたいから。加奈の学校の校門前で待っている」
「わかった、じゃあ授業始まるから」
加奈はそう言って携帯電話を切ったが、とてもけだるくてはるやに会う気には全くなれない。何もかもが面倒な気がした。
――どうしちゃったんだろう、私。
あんなに優しいはるやくんのことを一瞬でも煩わしく思うなんて。
それに、昨日のことがなかなか思い出せない。
貧血で倒れた後、シャナンが保健室に来て、えーと、家においでって。
シャナンに見つめられると嫌と言えなくて、違う、そう言ってほしいと待っていたんだ私。
シャナンのことを考えると、脈が速くなるのがわかった。
体中の血が騒ぎ、火照る。
――シャナンに何かされた?
甘い香り、紅茶?
いいえ、あれは血の匂い、シャナンの。
血ってそんなにいい香りがしたかしら。
加奈は取り留めのないことが次々と頭に浮かび、授業は全く上の空のまま、気がつくと放課後だった。
気が重いまま、のろのろと教室を出ると、廊下にはシャナンがいた。
「加奈、今日も遊びにいらっしゃい」
「はい」
考えるより先に、その言葉が口をついて出た。
考える必要はない。
ただ、従うだけ。
心地よい服従、加奈にとってシャナンの口から発せられた言葉は絶対の権力となっていた。
――これは恋なのだろうか。
いや、それ以上の何か、生きていく為の根源となるもの、シャナンがいないと私は存在しない。
シャナンは私が存在する為に必要なひと。
導かれるように、シャナンの後ろをついて歩き、校舎を出た。
まだ夕方には早い時間だが、雪が降っているせいか空は薄暗かった。
「加奈」
校門を出てすぐ、はるやが声をかけてきた。
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