影の子

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「待ったかい?」 デートの常套句に彼女は応じる。 「ううん。今来たところだよ。」 「ならよかった。今日は何処へ行く?北の方かい?それとも南?はたまた外国かい?」 「どこでもいいの。どこでも。」 「なら一人で行ってらっしゃい。」 手を振る僕に彼女の目はうるうるしだす。 「イーヤと!イーヤとが良い!」 「男の喜ばし方、良く知ってるじゃないか。」 僕は褒めながら可愛い彼女の真っ白い頬をいじくる。グルグル回して逆回転。 「いひゃいよ……いーひゃ。」 「えっ?何だって?」 本格的に泣き始めたので、やりすぎたと思った。この微妙な調整は今後続けていかなければならない。 しかし直ぐに彼女は泣き止んで困り顔の僕を笑う。 「男の困らせ方知ってるじゃん。」 しばらく歩いて満月に話しかける。 「なぁ?新しい名前を着けあわないか?」 「イーアは自分の名前が嫌いなの?」 「まぁ、それもあるが旅出記念みたいなノリでさぁ。コードネームみたいなもんだ。 二人だけの名前さ。」 「じゃあイーヤは今日から【キーヤ】に決定だよ。」 あんまり変わって無い気もするが。 「じゃあお前は今日から【ルナ】に決定。」 「なんか、お姫さまみたい。」 彼女は美しく、世界も美しい。 旅は始まる。 ムンクの叫びを思い出す。 彼が叫んでる理由はもしかしたら、自分のくだらない思考を吹き飛ばして、前を歩もうとしてるだけかもしれない。 ちらりと捨てられた新聞の一面が僕の目を引く。 【××××島が消滅、調査急ぐ】 世界は美しいだけでは無いようだ。
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