0人が本棚に入れています
本棚に追加
息が詰まりそうなほど建物が密集するこの町の細い通りは、隣り合う建物の屋根で覆われ、孤児や貧困民たちがひっそりと暮らしている。
私もそのうちの一人。
よろよろと食べ物を探すため、大きな通りに出た。
「なんか、今日は人が多いなぁ。」
いつも人が多い町だが、今日の人混みは異常だ。
これは、盗みがしやすい日でもある。
人の波に自然と流れ、目当ての品があればこっそりと手に取り、そのまま流れに乗る。
何かのお祭りでもするのだろう。きっと今日はお腹いっぱいご飯が食べることが出来そうだ。
(あ、おいしそうなパン…。)
目に留まったのは香ばしい香りを漂わせているパン屋だ。店先にはこんがりと焼かれたバゲットがある。
よし、と狙いを定めて、その店まで流れることにした。
(あと…もう少し…!!)
音を立てぬよう、慎重かつ素早くバゲットを手にする。
スッと抜き取り、そのまま帰ろうとした。だが
「あ、泥棒!!!まて、商品返せ!!」
店の奥にいたらしい、気の強そうなこのパン屋の女将が盗むところを見つけてしまったのだ。これは、まずい…。
私は人混みを掻き分けるようにして走った。
もし、捕まってしまえば窃盗の罪で処罰されるらしい。以前、大きな通りに出たときにおじいさんが捕まってしまい、警備隊の人がそんな事を言っていた。
「まてぇー!!!」
後ろから声が聞こえる。逃げなくちゃ、早く、もっと早く…!!!
ふと、自分の周りから人がいなくなった。
訳も分からず、周りを見渡しながら走る。人々は建物の傍で綺麗に整列している。何が起こっているんだろう。そう思って、前を向いたときに、答えが分かった。
「いたっ!!」
鉄の塊にあたるような、鈍い衝撃と共に。
最初のコメントを投稿しよう!