.

4/6
前へ
/6ページ
次へ
「ルキア。声が、聞きてぇ」 何言ってんだ、俺は。 ヤバいって思ってた端からこれだ。 俺らしくもねぇ。 鳴かせたいなら、強引にでも壊れるくらいにヤっちまえばいいのによ。 ゆるりと持ち上げられた白い手が俺の髪にかかる。 するすると撫でられていると、胸の奥の方が温かくなるようで。 無理矢理にでも、って気がどっか行っちまう。 「…ルキア」 あぁ、馬鹿みたいに情けねぇ声。 こいつといると微温い感情に満たされちまって、俺が俺でなくなっちまうような。 ぐらぐら揺れる地面に立ってるみたいで、無性に不安になる。 「しょうのない……これで、我慢しておけ…」」   ルキアが、俺の髪を撫でていた腕を首筋に回してきた。 かけられた言葉の意味に疑問符を浮かべていると、不意に頭を引き下ろされる。 力では俺が圧倒的に勝っているはずなのに、抵抗する気もおこらず、いともあっさりされるがまま。 小さな体を潰さないようとっさに肘を付き、倒れ込むのだけはなんとか堪えた。 深い夜色の髪が目の前でさらさらと揺れる。 ――何しやがる。 問いかけようとしたが、俺の頭を抱えたルキアの方が早かった。 「動け、馬鹿猫」 ごく短い宣告が、間近から俺の耳に滑り込んでくる。 小さな小さな一言。 けれどその音ははっきりと伝わった。 俺だけに。 偉そうな命令口調だが、声が聞きたいと言った俺を拒絶しやしなかった。 それがどうにも嬉しくて。 思わず頬が緩む。 ついでに目頭まで妙に熱くなる。 多分情けねぇ顔してるんだろうが、首筋に埋めてるおかげで互いに顔が見えなくなってるのが救いだ。 これ以上浸ってるとマジで大変な事になりそうだったので、誤魔化すように律動を再開した。 「あん…っ…」 耳元から脳ミソに直接突っ込まれるようなルキアの甘い声に、俺の頭ン中はじんじん痺れてる。 もう、おかしくなっちまってんだろうな。 側にいるだけで、ぽっかり空いちまった所が微温いモンで埋められてくなんてよ。 二度も本気で壊してやろうとしたコイツが、今は愛しくて愛しくてたまらない。 「ルキア…っ」 俺だけのために鳴くコイツに、ずぶすぶ溺れてく。 闇夜の色に魅入られて、俺は何度も何度も小さな身体を抱いた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加