ニンジン

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 バラバラになった色とりどりのペン。  掻き集めてケースに収めると、机の隅に置いた。  あたしのことをもっと見てほしい。  ペンケースの魔法は一瞬で解けてしまう。  出来損ないの魔法使いは、一瞬しか視線を勝ち得れない無力な存在。  先生に出逢って短くなるスカート。  日焼け止めを塗りたくって手に入れた白い脚。  ねえ、先生。  あなたを動かすものはなに?  終了のチャイムに苛立ちながら、肩まで伸ばした髪を掻き上げた。  首に残る爪痕も痣もクラスメートの噂の的。  でもどうだっていい。  これは先生があたしにくれた、唯一のしるしなのだから。  ゆらゆら揺れて零れ落ちる先生の冷酷な言葉。  そんな記憶にしか溺れられないあたしの、ささやかな復讐。  
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