タマネギ

2/15
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
 突き刺すような青が痛くて眼を瞑った。  校舎の屋上は緑のフェンスに囲まれている。  ――ここは牢獄だ。 「おまえ、佐倉と付き合ってんのか?」  壊れものを扱うような慎重な口調で城ヶ崎が聞く。  その質問の鋭いスプーンはあたしの胸を抉った。 「ううん」  こそげとられた脂肪の隙間に銀の針が埋め込まれる。  生暖かい血があたしの内側でワインのような紅さを誇っている。  校舎は冷たく佇み、城ヶ崎は透明な存在に思えた。 「……おまえ」  ――言わないで。  ――お願い、城ヶ崎。 「佐倉のことが好きなのか?」  鳥が空を横切った。  ああ、翼があれば、あたしが登ってゆけるのに。  唇から声が漏れた。 「うん」  上昇気流が逃げていく。  もう高くは飛べないのね。  張りぼてでもいいから、翼をこしらえたら天使にでもなれるかな?  だけど眠るとき、きっと邪魔だな。  あたしは先生から剥がされて、城ヶ崎と一緒にフェンスにもたれている。  あの三匹の蛾はまだ先生と一緒にいるのだろうか。  
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!