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「オイ起きやがれ!!」
――てめぇが黙れよ。
怒鳴り声に面倒そうに目を開いた俺が立ち上がると同時に、近くの天幕の入口が開き中から一人の男が顔を見せた。
月明かりに照らされた男の顔は、もとからブルドッグみたいな表情が、何かしらの怒りにより、ますます剣呑さが増していた。
――うわ~、オッかねぇ顔だなおい。
「外が騒がしい、ちょって行って様子を見てこい。」
「はい。」
男の命令に俺は即答した。
ここでもたついてると、たちまち罵声と拳が浴びさせられることになるのは明白だ。
全く、面倒なことだ。
俺は男に忠義を示さなくてはいけない義務があった。
男、アガリクス・バノンは技術士と呼ばれる特殊階級の人間であり、俺はそんなバノンが所有する召し使い、いわゆる奴隷だからだ。
バノンと俺の年齢差はバノンが二歳上ぐらいだったが、身分にはかなりの差があった。
だから俺はバノンの命令に逆らえないのだ。
俺達が今いるのは、スペリアル王国の首都、『栄光の都』と昔話の英雄が生まれたと言われる王都ファルスの横にそびえる山の中腹の拓けた場所だった。
周辺には同じような天幕が張られ、多くの者が野営しているが見て取れる。
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