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深い霧がたちこめていた。
それも、夜を切り開く黎明に酷似した、薄い布地を幾層にも重ねたような、深い藍色の霧が。
ラグール村の近隣には藍色の霧が出ると聞いたのは、どこの街のことだっただろうか。
周囲はすっかり深い藍色に覆われてしまい、一メートル先もはっきりと見通すことが出来ない。
霧に隠れてしまう前、僕らの進んでいた道は、たしかにラグール村へと繋がっていたはずだ。早朝の地平に突出したラグール村の家々を見て、僕らは実に四日ぶりに「朝露に濡れずに朝を迎えることが出来る」と喜んだものだ。
それが、つい三十分ほど前のことだった。薄らぼんやりとした霞として姿を現した霧は、徐々に濃度をましていき、そして。三十分も経たない内に、疲労に足取りを重くしていた僕らを覆い隠してしまったのだ。
「足元、気を付けてね」
呼び掛けに答えはない。その代わりに、横にだらしなく垂らしていた右手の甲にふわりとした何かが触れる。
僅かに湿ったそれに、僕は笑みを浮かべた。
「ね、マヤ。もしも、君のその尻尾がこの霧に染められちゃったらどうする?」
くすくすと笑いながら訊ねれば、マヤはガラス玉のような目で僕を見つめた。
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