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「……マジ?」
僕の目の前に現れたのは、この辺りじゃまずみない程大きな熊だった。口の端からはよだれが溢れ、血走った目はしかとこちらを睨みつけている。
「そうとう腹ペコみたいだよ」
どこか楽しげにマヤは言う。まったく、自分はあまり戦わないからって気楽なもんだね。
「大人しく食べられる気はないから」
僕は鞄に突っ込んでいた手を引き抜く。取り出したのはひと振りのナイフ。護身用のものだが、刃渡りは20cmある立派なやつだ。
「グルル……」
どうやらくまさんも朝ごはんにありつきたいみたいだね。さて、どっちがご飯になるのかな?
「……」
僕は熊とにらみ合う。藍色の世界の中、互いの息遣いだけが静かに反響していた。
「っ!」
「グルァ!」
どちらともなく駆け出す。方や人間の知恵から生まれた武器を、方や生来持ち得る己の武器を振りかざし、一直線に相手へと肉薄する。
「はぁ!」
「グル?!」
僕は熊の一撃をかわすと、がら空きの脇腹を切りつける。だが、固い毛のせいで驚かせる程度のダメージにしかならない。
「グルァァァ!」
しかも、今ので怒らせてしまったらしく、熊が先ほどよりも早いスピードで迫って来る。しかし、その攻撃はまっすぐで単調なもの。僕はスピードだけのその攻撃をかわすと、再びナイフを振るった。
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