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次に俺がマユミを見たのはレンタルビデオ屋「ワールド」でのことだった。
マユミは職を一転し、レンタルビデオ屋の店員になっていた。
マユミのことなどすっかり忘れていた俺がたまたま立ち寄ったレンタルビデオ屋でマユミと再会した。
マユミは床にしゃがみこみ、鼻歌を歌いながらビデオの返却をしていた。
マユミが歌っていたのはラブサイケデリコの「ラストスマイル」だった。
その姿を見た瞬間、俺の中に電撃が走った。
「カナリア」で見た暴力的なマユミと、鼻歌を歌いどこかのんびりとしたのどかな雰囲気をかもし出しているマユミのギャップが絶妙にブレンドされ、俺の恋心に火を点けた。
その日から俺はちょくちょく「ワールド」に通い始めた。
映画を捜してもらう口実で話し掛け、仲のいい常連客になっていった。
マユミと話していると俺は和やかになっている自分に気づいた。
マユミは女にしては低い声だったが、俺はその声がとても好きだった。
しかし、マユミと仲良くなればなるほど俺の空しさも広がっていった。
いくら親しくなってもそこには〝客と店員〟の見えない壁が広がっていた。
かといって俺は今の関係のままマユミに自分の気持ちを告白するほどの勇気もなかった。
そんな平行線の関係が永遠に続くのかと俺が考えていたある日、俺は一人の老人と出会った。
老人の名前は國無由自………。
この國無由自との出会いが俺の人生を大きく変える事になるとは、この時の俺は思ってもいなかった。
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