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「最近この時間来るの多いね? 仕事は大丈夫なの?」
『平気、この時間の方が都合がいいから』
いつものソファーに深く腰掛けた私は、向かえに座る白衣に身を包んだ30代後半にはとても見えない童顔の彼を見つめた。
「都合がいいって、彼氏にまだ話してないの?」
『……。』
毎週されるこの質問。 いつもは適当にはぐらかして終わらすんだけども、家を出る前の功平の顔を思い出してか今日は何故かそれが出来ない。
「親御さんと約束して決めたカウンセリングは週に1度だよ、本来なら夜8時までやってるから仕事帰りにでもこれるのに、彼氏に話せてない今は仕事休んでワザワザ来てる…
そろそろ限界を感じてるんじゃない?」
凄く穏やかな口調で私の心の中を見通したようなこの発言に自然と眉間にシワが寄る。
『……。』
前の会社に居た時に、不倫をしていて そこで警察沙汰を起こしてしまった…
それ以来ずっと週1でカウンセリングに通うように義務付けられたんだけど、功平と付き合うようになってからそれがカナリ億劫になって来ている。
「まだ話す勇気はないかな?」
『話すって何を?
相手にのめり込み過ぎて頭おかしくなった挙句、誰が誰で自分が何をしてるのかも分からなくなって、人の家に勝手に侵入してそこにいた彼女を傷付けようとしたって? 自殺未遂まで起こしたって洗いざらい言えばいい訳?
そんな話ししたらアイツもさぞ驚くわね、そんな女と付き合ってるのかって』
「話せば彼が離れていくって、そう思ってるんだね?」
『当たり前じゃない! きっと自分にも危害を加えられるかもって逃げるわよ普通、私なら絶対そうするから』
前のめりになって声を荒げる私を見ても眉毛ひとつ動かさない彼をしばらく睨みつけた後 私は思いっきり顔を逸らした。自分には結果が見えてるとそういわんばかりの顔が私をイライラとさせて。
確かにここで、随分功平の事を話してきたけど、だからって先生が私より彼を知ってる訳じゃない。
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