第2話

9/15
前へ
/622ページ
次へ
「あ、そうだ春菜。」 「はい?なんですか?」 「御風呂入りたい。だめ?」 「この時間は誰も使ってないと思いますが…、少し後の時間になると辰己(タツミ)花魁の入浴時間ですから、のんびりはできませんよ?」 「うん、ありがとう。」 烏はそう言って柔らかく笑う。 その笑顔に思わず赤面してしまい、春菜は俯いた。 幸い、そのことは烏にばれていないようである。 「入るんなら、食べ終わってすぐ行かないといけませんね。僕は準備してくるのでここで待っていて下さい。」 「うん。」 そう言い残して部屋を出ていく春菜を見送り、烏はほっと息をつく。 部屋に一人なのだから、もっと身体から力を抜いてもいいものなのに、烏は決して抜かなかった。 「…梅一。」 「あ、ばれちゃったかー。」 烏の声に応えるように、押し入れの中から黒装束を纏った男が現れる。 気を抜けなかった理由は、この男だ。 「俺にばれなかったら、そんなとこにずっといるつもりだったの?」 「ははっ、まぁ、気付くって分かってるしな。」 「…はぁ。梅一って、ほんと駄目忍者だよね。」 「そんなことないって。俺は優秀なのよ?」 そう言って微笑むこの男は、梅一。 忍者を生業とする男で、烏の兄貴分。 「…で?どうなの、何か掴めそうなの?」 「まだまだ。そんなに早く成果が出るわけないでしょ。」 「そっかー。」 烏はとある事情から、この男に飼われている。 この男のもとで、忍者のようなことをしているのだ。 「まぁ、俺は気長に待つけどねー。奴さんは待ってくんないと思うよ?」 「‥分かってる。」 烏は、調べていた。 この裏郭のとある人間を。 「まぁ、分かったらまた頼むねー。」 「うん、分かってる。」 烏は、消えていった梅一の気配に身体から力を抜いた。 .
/622ページ

最初のコメントを投稿しよう!

412人が本棚に入れています
本棚に追加