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それから耕吉の用意してくれた飯を食べ、春菜が用意してくれた風呂に入った。
そして、あまりゆっくりは出来ずに上がる。
しかし、それだけで烏の身体はすっかり温まり、深緑の着流しだけでも寒くなくなった。
「はぁ…。」
そして、風呂から帰りに廊下を歩いていると、前からきらびやかな着物を着た美男子が歩いてくるのが見え、烏は廊下の端に寄って頭を下げる。
あれは、辰己花魁である。
この店で人気を二分するうちの一人だ。
この世界は上下関係が厳しく、規律を乱す者を排除していく風潮にある。
だから、烏はただ無言で頭を下げるのだ。
「あらあら。こんな時間に誰かと思ったら、貴方だったのですか。」
「…ご機嫌麗しゅう、辰己花魁。」
「ふふっ、ありがとう烏。」
辰己はその化粧を塗りたくられた顔を綻ばせて、また歩き出す。
あの人は、烏と会えば何かしら絡んでくる面倒な人だ。
絡んでくる時は優しくしているつもりだが、烏はあの人が影で自分を罵っていることを知っている。
だから、自然と苦手意識が生まれてしまい、なかなか上手く喋れない。
せっかく風呂上がりで気持ちよく部屋に戻ろうと思っていたのに、あんなのに会ってしまったせいで台無しである。
烏は、僅かに気落ちしつつ部屋に戻った。
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