412人が本棚に入れています
本棚に追加
「あーあ。また眠くなってきちゃった。」
「さっきまで寝てたんでしょ?春菜から聞いてるよ?」
「えー…。だめ?」
「だーめ。俺はね、兄さん。お客達みたいに兄さんの笑顔に釣られたりしないからね?」
言い含めるように夏輝は言った。
そんな夏輝の言葉に頬を膨らます烏を見て、夏輝は釣られそうになる。
たしかに、夏輝は笑顔に釣られたりはしない。
でも夏輝は、烏の不満気な顔や、寝起きの顔など、自分にしか見せない顔が好きだった。
だからこそ、夏輝は意地悪をしたり、そういう顔を引き出そうとする。
「…夏輝の意地悪~」
「なんとでも。」
「わからずやっ」
「はいはい。」
「………もういいもん分かったもん。起きますよーだ。」
拗ねて、いじけて、可愛らしくそっぽを向いて。
烏は立ち上がって文机に向かった。
そんな烏に、夏輝は話しかける。
「日記?」
「うん。銀二さんに書けって言われてるからさ。」
銀二がこの人を拾ったのだと聞いている。
捨て子など、別段珍しくもないけれど。
夏輝は、烏の髪に目をやった。
烏というには、あまりに眩しすぎる白髪。
きめ細かい白磁の肌。異人との混血なのかと勘繰りたくなるが、その面はどう見ても日ノ本の人間。
瞳は漆のような黒。
雫が溜まってしまうのではないかと言うくらい、長い睫毛。
白すぎる肌には毒が強いような、艶やかな朱の唇。
瞳を裂くような痛々しい傷は、むしろ彼の華のような気さえしてくる。
そんな見目麗しい彼を、いったい何処の誰が捨てたのか。
自分なら、決して離さないのに。
腕を開け放しはするけれど、きっと歩き出したら、すぐにその腕を引いて己の囲いの中に連れ戻す。
絶対に、捨てたりはしない。
「…見つめても、何にも出ないよ?」
そんな夏輝の視線に気付いたのか、烏は擽ったそうに首を竦めて背後の夏輝に言った。
.
最初のコメントを投稿しよう!