第霊話(ダイゼロワ)

2/2
前へ
/35ページ
次へ
泥で汚れたカッターシャツ、ひびの入った縁どりのある眼鏡、皮膚には所々に青あざがある少年が一人マンションの屋上にいる。 そこに吹く風は今でも気持ちよくて見晴らしもとても良い。 特に今の時刻の夕日はとても綺麗だった。 日向にとってはお気に入りの場所だ。 今の日向にとっては自分が惨めに思えて仕方なかった。 別に今日に限った話でない。 毎日毎日中学で虐められてよく今日まで耐えてきたと思う。 これもこれで終わらせる。 日向は一歩、また一歩と足を動かし柵に手をかける。 柵を跨ぎ、柵を越える。 目の前には地平線に消えようとしている夕日。目線を少し下げると日向の住む日陰市がある。 日向は深呼吸をして呼吸を整える。日向の飛び降りる準備のひとつだ。 入念に深呼吸をして、そして終える。 「・・・・・・よし」 膝を曲げ、跳躍する一歩手前で。 「何してるの?」 不意に可愛らしい声が聞え、跳躍を止めるのだが、脚は飛ぼうしていて変な勢いが発生していたのだ。 「うわあ!」 上半身はマンションを飛び出し今にも落ちようしてしまっている。 「あぶない!!」 声と共に足音が近づいてくるのが分かった。 そして日向の腕を掴んてきた。 「・・・・・・ッ!」 そして、日向の腕を引っ張っている。 「んーしょ!んーしょ!・・・・・・」 日向の姿勢が安定し、掴まれていた腕を離してくれた。 「大丈夫?」 声のほうを見てやるとそこには少女が一人いた。色素の薄い青い髪、同じ色をしたワンピースタイプの服にサンダルを履いている、夕日に負けないような真っ白な肌だった。 「ん・・・まぁ」 取り敢えず返事をする。 「こんなとこにいちゃダメでしょ」 「いいだろ。別に関係ない」 「ほら早くこっちに来て」 少女が手を伸ばしてくる。 「・・・・・・・・・」 日向は無言になってその場から動かない。 「ほらー」 少女は柵から身を乗り出して手を差し伸べてくる。 「・・・・・・・・・・・・」 少女の手を借りずに柵を越える。そそのまま屋上を出るために足を動かした。 「ちょっとーなにか喋ってよー」 「・・・・・・・・・」 無視して足を動かし続けた。 「ぴぎゃ!」 可愛らしい悲鳴をあげたみたいで日向は足を止めて確認した。 少女がずっこけてただけだった。 日向は気にすることもなくその場から去っていった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加