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「しんちゃん、ボタン取れたの?貸して、直したげるから。」
男子のジャケットをあずかると、ササッと直しちゃうあたしは、朋奈(ともな)中1。
勉強もスポーツも、まあまあ、遅刻なし、忘れ物もなし。
それでもって、裁縫セットなんかも持っていて、けっこう気がきくとクラスで評判なの。
部活はバレーボール部、毎日頑張ってるから、食欲あるし、夜もぐっすりよ。
何もかも順風満帆、そんな感じ。
本当に、充実して楽しんでいた、あの日までは…。
それは、ある雨の午後だった。
同級生の元樹(もとき)が、校舎で雨宿りしてたんだ。
元樹はイケメン、学年一ってくらい、女子に人気があるよ。
でもあたしは、まだ初恋なんて知らなかった。
楽しいこと多すぎて、恋なんてしてるヒマないって、思ってた。
あたし、置き傘と、今朝かぶってきた傘の2本あったから、元樹に貸す為に近づこうとしたら、なんと親友の梨香(りか)が、先に元樹に傘を差し出したよ。
あら、梨香も2本持ってるのね、なんて思ってたら、梨香ってば自分は傘を差さずに、雨の中飛び出したの。
そしたら、元樹はほっとけないよね。
すぐに梨香を追いかけて、梨香の頭上に傘をかざし、梨香の手首をつかまえたのよ。
あたし、ちょっと離れた所にいたんだけど、何だかドキッとしたの。
梨香は恋してるんだって、思った。
いつも一緒にいるのに、あんなに可愛い梨香、初めて見た。
元樹も、いつもより更にカッコよかった。
あれれ…二人が急に、遠く感じたよ。
二人とも、あたしに見せたことない動きするんだもの…。
好き同士なのかも…そう思った瞬間、なぜかとても切ない気持ちになったんだ。
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