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ここは部屋の中?
笑い声!?女の子?
足元が揺れる
「立たなきゃ駄目よ、イェリス」
あなたは誰?その声は誰?
立ったよ、ほら、立ったよ
次の瞬間、青い大きな空が頭の上に広がった
廻りには大勢の人
賑やかな歌声、そして歓声
みんなの視線が同じ方向を向いている
その先に停まる車の中から女の人が手を振って来る
あなたは誰?
笑っているの?泣いているの?
危ない、危ない
父の声?
おとうさんの肩の上だ!
おとうさん、顔を見せて
強引にしゃがみ込もうとした時、足が滑って落ちて…
目が覚める
「珍しい人から手紙が届いたわよ」
イェリスが学校から帰ると母親がいつになく、笑顔で話し掛けて来た。
「マリベスよ…覚えていない?」
マリベス…
マリベス、誰だろう
その名前は確かにイェリスの遠い記憶の底に眠っていた
ただ懐かしい感覚だけが甦る
大切な思い出
でも、思い出せない
どうしたんだろう…
最近、こんな事ばかり
昔の事を次々と忘れていってる
「どうしたの?」
気づくと、目の前に心配そうな母親の顔があった
「おかあさん…」思いもしなかった言葉がイェリスの口から溢れ出た
しかし、言葉になったのはその一言だけだった
あとは、いつまでも流れ続ける涙の中、嗚咽となって消えていった
どれほど泣いたのだろう?
夢でもみてたのかしら?
泣き止んで、初めてイェリスは自分が母親の胸に抱かれていた事にきづいた
優しそうな母の笑顔
忘れていた笑顔がそこにあった
そして、母のその瞳からも涙がひとすじ、頬を静かに伝い落ちた
それは夫に捨てられたと言う事への悲しみ、怒り、憤り等から流して来た昨日までの涙とは異なる、苦労をさせた一人娘への犒い、悔恨、謝意の様な思いからくるものだった。
そしてイェリスと目が合うと優しく微笑んで涙を拭おうともせず言った
「ほら手紙よ、マリベスの」
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