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母から話を聞いているうちに懐かしい記憶が少しずつ甦って来た。
優しいマリベス
姉の様に接してくれた人
長い年月の間、日のあたらない谷底深くに、置き去りにしていた思い出、そしてなくしてしまったその記憶
これらに俄にスポットライトがあたる
目映いばかりの突然の光
しかし、その光の中、何度記憶の糸を手繰ってみても、何処かで見失ってしまう
そして、はっきりと見えていたはずのマリベスの姿が、光の向こうへと消えてゆく
手を伸ばせば伸ばしただけ遠ざかり
やがて消えてゆく
ふと気づくと
何処かで
全く別の何処かで
追憶の重いドアを、内側からマリベスが懸命に押し開けようとしている
しかし、当のイェリスにそのドアを引いて開ける力などありはしない
ちょっと開いたその隙間から思い出の断片を二つ、三つと取り出すのが精一杯だった。
母の話ではマリベスは、近所に住んでいた身寄りのない娘で、母が独身の頃より妹の様に可愛がっていたと言う事だった。
「あなたはマリベスの事が大好きだったのよ」と母はイェリスの方を見ながらも、遠い昔に思いを馳せた面持ちで言った。
確かにそうだ
そうだった様に思う
しかしイェリスにはどこかしっくり来ない
マリベス…
ああ、マリベス…
あなたは誰なの?
イェリスの心の中で、マリベスの存在が日に日に大きくなっていった
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