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その後もマリベスの事に関して母のとる態度に大きな変化はなかったが、それでも機嫌のいい時等は自ら話す事も珍しくなく、現在に至るまでの概要は少しずつ霧が晴れる様に見えて来た。
イェリスは自分の母親が身寄りのない孤独な身の上だと言う事は勿論承知していた。
しかし、母の口から孤児院の話を聞いた記憶は殆んどなかった。
ところがマリベスとはその頃からの付き合いだと母は言う。
イェリスは少なからず驚いた
と同時に悲しくなった
マリベスの件に限らず、孤児院に関する話ならば、これまでに話す機会は幾度となくあった筈だ
これでは、意図的に話さなかったとしか考え様がないではないか
そこには悲しむだけではなく、母親を訝しむイェリスが居た。
母とマリベスとの年齢差は6歳、子供の頃の6年の開きは相当のものである。
母は、マリベスを実の妹の様に可愛がって来たと言うが、実際はそれ以上の思いがあったのではないだろうか…?
イェリスはふとそんな事を考えた
暫くは疑似母娘の関係は上手く行っていたのだが、やがて先に成人となった母が結婚し、本物の娘を授かる事になる。
そうなれば、それまでの疑似母娘関係にヒビが入ったと言う憶測も充分に成り立つ。
イェリスの両親が結婚してこの家での生活を始めて間なしに、マリベスも近くの老夫婦の家に住み込みで家政婦の仕事をする様になった。
住み込みと言っても、母屋とは別棟の納屋の2階での生活である。
しかし荷物の類いを殆んど持たないマリベスには、それで充分であり、生まれて初めて手にした自分だけの空間は想像以上に居心地のいいものだった。
ここで細やかな疑問がイェリスの脳裡をよぎった。
そこでの家政婦の仕事をしようと決めたのは、マリベスの意思によるものなのだろうか?それとも、姉の様な立場として面倒を見続けて来た、母の側の意思なのだろうか?
いずれにせよ、この小さな村にとって、若い夫婦と更に若い娘が引っ越して来た事は、大きなニュースであり且つ喜ばしい出来事であった。
それから、忘れてならないのは、この時点で既にイェリスも家族の仲間入りをしていたと言う事実である。
無論、イェリスにその頃の記憶など微塵もありはしないのだが。
イェリスの母、21歳、マリベス、15歳の時の事である。
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