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薄暗い部屋の中…
ここは何処?
背中の方から笑い声が響く
女の子?
慌てて後ろを振り返る
目の前に男の人が立っている
イェリスは驚いて尻餅をついた
すると上の方から、また笑い声
あなたは誰?
笑うだけで応えは返って来ない
目の前の男は、胸から上が影になっていて、顔が見えない
おとうさん!?
マリベス!?
急に、明るい光に包まれる
青空が広がる
歓声
イェリス、立たなきゃ駄目だよ!
マリベス!?
マリベス、ほら!立ったよ、立ったよ!
危ない!
悲鳴
おとうさぁん…
真っ暗な部屋の中
イェリスはベッドの上で横になったまま、大きく目を見開いていた。
額に吹き出た汗が、時折、目の縁を伝って耳の中へ流れ落ちる。
この季節、まだまだ夜は冷え込みが厳しく、ましてや真夜中である。
しかし、イェリスは額に限らず、全身に粘りつく様な嫌な汗をかいていた。
今し方見たのは夢?
それとも、私の記憶の再現?
一体あれは何?
何だったのよ!?
確かに内容は今まで繰り返し見て来た夢と変わりないのだが、しかし明らかに何かが違っていた。
それは真実のみが持つ重みとでも言うべきであろうか、長年封印されて来たイェリスの記憶が何等かの理由で夢の中に流れ出たのかも知れなかった。
即ち自らの記憶が加味された夢を見る事により、更に強くその記憶が喚起されたのではなかろうか。
「マリベス…」イェリスは暗闇に呟いた「私は確かにあなたと一緒に居たわ。でも、あなたは母の言うマリベスじゃない。あなたは、何処の誰なの?」
どれ程時間が経っただろうか、喉の渇きを覚えたイェリスはベッドから降りてキッチンへと向かった。
母の部屋の前を通る時、耳を澄ませてみたが、寝息はおろか物音ひとつ聞こえて来なかった。
今、何時だろうか?
キッチンの手前にあるリビングのテーブルに置かれた、デジタルの置き時計に目をやると、もうじき2時になろうかと言う時刻だった。
イェリスは音を立てない様に注意しながら、キッチンのドアを開け、ゆっくりと中へ入って行った。
勿論、そこに母の姿がある筈もなかった。
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