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イェリスは冷蔵庫から飲料水の入ったペットボトルを取り出すと、じかにそのまま口にあてがって呷る様に飲んだ。
冷えた水が喉から腹にかけて一気に染み渡る。
気温の低さも相俟って、瞬く間にイェリスの体中から汗がひいた。
すると同時に、気持ちの方も落ち着きを取り戻して来た。
そこでイェリスは冷静な頭で、もう一度先ほどの夢を思い出そうとした。
あの顔が影になっていて誰だか分からない大人の男、あれは恐らく父で間違いないだろう、問題はあの姿の見えない少女の方だ。
何故、あの夢の中の女の子がマリベスなのか、母が言うマリベスとは年齢的にも同一人物たりえない。
それに、その歳上の方のマリベスは、イェリスの記憶の中で徐々に甦りつつあるのだが、明らかに別人である。
イェリスはいつもの様に窓から街の夜景を見た。
漆黒の海に浮かぶ光の島
深夜にも拘わらず、煌々と光り続けている。
しかし、その光の中に居る者逹は、自分の住む街がこの様な姿に見える事など知る由もない。
また、その逆も言えるであろう。
即ち、この遠景しか知らぬ者が、どうしてあの雑踏を想像する事が出来ようか?
そして、真実はひとつと言うのであれば、どちらかが嘘になる。
恐らく、人類はこの類いの間違いを、繰り返して来たのであろう。
その時代の風潮、科学の進化等で乗り越えたとしても、またスケールを変えた同じ様な問題に遭遇しては、為す術を失なう。
それが、以前に踏んだ轍だと気づく事なく。
一時的に冴えたイェリスの頭に、再び眠りの波が打ち寄せて来る。
心地いいさざ波…
その時、光の島の前を何かが横切った。
イェリスは咄嗟に窓から身を隠すと、大きく息を吸って呼吸を整えた。
動悸が地震の様に体の中で響いている。
意を決して、ゆっくりと窓から外の様子を窺う。
やはり、そうだった
嫌な予感ほど当たるものなのだ。
窓の外に、街の方を向いて佇む母の後ろ姿が見えた。
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