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イェリスを乗せたバスは6車線ある道路を、駅に向けて走っていた。
ところが、ちょうど通勤で込み合う時間帯に掛かってしまったのか、この駅へと続く太い道に出た辺りから、行き交う車の量が増え始めたかと思うと、瞬く間に渋滞してしまった。
駅は直ぐ先に見えているのだが、車が動かない。
街は俄に活気づく。
路面を覆い尽くす無数の車。
信号が青になると、大きな波の様になって道を渡ってゆく、限りのない人の群れ。
歩道には、これから一日が始まる人達の中に紛れて、逆に夜通しの勤めの明けた者、旅行者など、いくつもの顔を見る事が出来る。
雑多な人いきれ
その時、突然イェリスの頭の中を閃光が突き抜けた。それは凝縮された光のかたまりが、瞬時に激しく弾け散った様な眩しさだった!
そして、その峻烈な光に視界が奪われると、すぐに激しい頭痛が彼女を襲った。
意識が遠退いてゆく。
周りのあらゆる音と言う音が混ざり合って一つのくぐもった大きな音となり、イェリスの頭の中で反響を繰り返した。
朦朧とする意識の中でイェリスは思い出した。
初めてじゃない。
この感覚には覚えがあるわ。
、
それも一度や二度じゃない。
目が眩む様な閃光と、街の唸り声とも言えるくぐもった 大きな音、そして激しい頭痛、それらは確かにイェリスの記憶の深い部分に刻まれていた。
そこは日常では陽光の遠く届かない深みであり、イェリス自身の意識も及ばない領域だった。
暫くすると、頭の中で反響を続けていたその重々しい音が、ふいに空回りする様な音に変わった。
そして一つの大きな音はほぐれて行き、再び様々な音へと不規則に分裂して行った。
イェリスの全身から力が抜けて行く。
間無しに全ての音がそれぞれの場所へと落ち着いた。
頭痛がイェリスの下を去り、奪われていた視界が戻って来る。
しかし、その視界に飛び込んで来た情景は、バスの中ではなかった。
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