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ララの瞳の灰色の部分が広がり、白目の部分が殆んど無くなっているのだ。
しかも、その灰色も元々の透明感のあるきれいなものではなく、輝きのないくすんだ黒っぽいものに変わっている。
そして、その一色で目の殆んどを塗りつぶしているものだから、その視線は焦点の定まらない生気のないものとなり実に奇怪である。
その目を見たイェリスは深海に棲む古代から姿の変わらない魚の退化した目を思い出していた。
そして、その奇妙な目でララが笑いかけて来る。
その瞬間、寒気がイェリスの背筋を駆け抜ける。
イェリスは俄に気味が悪くなり、二歩三歩と後退る。
そして、更にもう一歩下がったところで、何かを踏み外して落ちて行った。
それも一瞬の事だった。
ふと気がつけば、あのロウソクとベッドだけの寂しい部屋に居た。
しかし今度は、ベッドの上に居た細身の少女が、目の前に立っている。
薄暗い部屋の中、無言でイェリスと対峙するその姿は、まるで亡霊の様に不気味だった。
そして、イェリスがその場から逃げ出そうとすると
「待って、行かないで」と言って来た。
その声も口調も存外にしっかりとしたものだったので、イェリスは思わず立ち止まリ少女の方を振り向いた。
しかし、部屋の中は暗く表情は全く読めない。
すると、その少女は何かを察したかの様にナイトテーブルの引き出しから新しいロウソクを1本取り出すと、机上のロウソクの焔から火をつけて、自分の顔の前にかざしてみせた。
光の乏しい部屋の中、ロウソクの焔で少女の顔は、明るく照らし出された。
そして、その顔を目の当たりにしたイェリスは恐怖と驚愕のあまり意識を失ないそうになる。
「やめてよ」イェリスの声が震えている「嫌よ、こんなの」
ロウソクの焔の向こうに自分の顔がある。
気を失なわないまでも、目眩がしてその場に立っていられなくなる。
イェリスは咄嗟に目を閉じた。
これは一体どういうことなの?
恐怖の対象は立ち去った訳じゃなく、すぐそこに居る。
イェリスが恐る恐る目を開くと、やはりもう一人の自分がこっちを見ている。
その時、イェリスは気づいた。
もう一人のイェリスの目も先ほどのララの目と同様に、黒目のくすんだ色一色で塗りつぶされている事に。
そして、ララと同様に、その目で笑いかけて来た。
もう、やめて!
イェリスは悲鳴と共に目覚めた。
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