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砂南(すなみ)祐市が飲んでいる無色透明の飲み物は、水と混ざると白く濁ると言う極めて希な特徴を持つこの国の代表的な酒である。
背の低いロックグラスの中には大きめの氷が、ひとつ入っている。
祐市が自身の目で確認した限りでは、この国の男達の殆んどはストレートで呷る様にこの酒を飲む。
たまに氷を入れて飲む者が居たとしても、やはり無色透明の酒が白く濁る事はない。
何故なら、彼等はみな氷が溶け始める前に中の酒を飲み干してしまうからだ。
祐市は数日前に、それでは氷の意味がないではないかと、この同じホテルのバーでたまたまカウンターの隣に座った男に質したところ、氷に意味などない、と簡単に返されてしまった。
氷が入っているかいないかは、オンザロックで飲むかストレートで飲むかと言う形式の違いであって、中の酒は全く同じものであると、さも深遠な意味のある講釈でもする様な面持ちでその男は語り始めた。
祐市はその話を聞いてるうちに、酔いも手伝って、胸の中に封印していたことをつい思い出してしまった。
「彼は喜んでくれたわ」麻由香の声が聞こえる
「氷が形式だと言うのか」祐市はため息混じりに言う「では俺は形式を気にし過ぎてたって事なのか」
そして、カウンターの上に置いてある飲みかけのロックグラスを目の高さにまで上げて、店内の仄暗い照明にかざして見た。
半分近く残っている酒が白く濁っている 。
祐市は自嘲気味に笑うと、思い出したかの様に横の男に視線を戻した。
しかし、男は疾うに祐市への関心を無くしてたみたいに、無言のまま前を向いて飲んでいる。
いや、元々、話し掛けたのは祐市の方なのだ。
男は、それに返答しただけと言う事なのだろう、残っていたグラスの酒を一気に
飲み干すと、そのまま席を立った。
そして、店を出る際に目が合ったので、祐市が小さく片手を挙げると、男は僅かに頷いて去って行った。
その時、取り残された訳でもないのに、何故か祐市は自分がひどく悪酔いしてる様な気分になったのだった。
一気に飲んで、次の店へ行く、それがこの国の酒の飲み方らしい。
目の前のグラスの中が白く濁っている。
「ライオンのミルク、お気に入りの様ですね」
突然の声に祐市は驚いて両隣の席を確認したが、誰も居ない。
事態が掴めないまま正面に向き直ると、そこに声の主が居た。
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