7人が本棚に入れています
本棚に追加
イェリスが十代の半ばになった頃、妄想の中で父を慕う気持ちと、現実の父の母国への憧れとが交錯する様になり、最後は熱に浮かされるほど、一途に父の住む国を思い続ける様になって行った。
実際に父の国の情報は巷に満ち溢れていた。
そして、報道される、ありとあらゆる情報が魅力的であり、イェリスはその国の民の血が半分流れている事が誇らしくて仕様がなかった。
時代の最先端を行く、超ハイテク国家でありながらも、過去の数ある伝統文化芸能、全てが完璧な迄に研ぎ澄まされており、どの分野を取り上げてみても、比類のない質の高さを誇る、
イェリスにとって父の国とは、そう言う国なのであった
しかし、イェリスのこうした変容に母は敏感に反応した。
「あなたは…」と母が言って来る「まだ見ぬ王子様に憧れているだけなのよ」
普段は静かな、母と娘だけの夕飯の時間である
イェリスは食事の手を止めて、黙ったまま母親の顔を見ている。
「王子様なんて居やしないわ」母は感情の高ぶりを抑えて言う「いえ、居なくていいのよ、居ない方がいいの」
普段から会話の少ない母娘であるが、それでもイェリスからすれば、いつも母に遠慮して来たつもりだった。
ところが、母はそうは捉えてはいなかった。
「母親として、心配して言ってるのよ」母は苛立ちを抑えながら言う「返事ぐらいしたらどう!?」
「おかあさん…」イェリスは努めて冷静に応える「今まで私はおかあさんを困らせる様な事などしないままちゃんと生きて来たでしょう、勿論これからも変わる事はないわ…」
イェリスは言葉を止めて、母の様子を窺いかけたが、すぐに思い直して続きを話し始めた。
この先も、迷惑を掛ける様な事はしない、と約束できると同じ内容を繰り返した後
「だから私が何処に行こうが誰と会おうが放っておいて、私は自分の人生を自分の責任で生きて行くから」と言った。
最初のコメントを投稿しよう!