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小野麻由香はフロントガラスにバラバラと音を立てて吹き付ける大きな雨粒を見ていた。
その向こうには港の灯りが滲んで映っている。
エンジンを切った車内の温度が少しずつ下がって来てるのが肌で分かる。
運転席の祐市は黙ったまま前を見ている。
空気が重い。
話さなければ、
麻由香は心の中で自分を促す。
強い雨音が沈黙の車内で溢れ出そうなほど、大きく反響していた。
思い返せば3ヶ月前、いや、もう4ヶ月近く前の話になるのだが、麻由香と祐市は同じこの場所、即ち港を見下ろす高台に車を停めて今と同じ様な重々しい表情のまま、並んで座っていた。
俄にその時の記憶が麻由香の脳裡に甦る。
その夜、雨は降っていなかった。
時節は真冬、エンジンを切る事はなく、逆に車内はヒーターで暖かかった。
今の風雨に曝されている状況の方が、余程、彼女には寒々しく感じられた。
そして、その暖かい車内で麻由香は祐市にある告白をしたのだが、それは彼女が思っていたよりも遥かに残酷な刃となって祐市ともう一人の男、境杳介(サカイヨウスケ)の心を傷つける事となった。
それは麻由香の望んだ結論ではなく、彼女は自分を責め自分の取った行動を強く悔いた。
そして当然の様にその自責の念が最後に諸刃の剣となり麻由香自身をも大きく傷つける事となるのであった。
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