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祐市の中で恋人と友人に対する懸念が同時に沸き起こり、2つの渦となって激しく絡みあっている。
そして、それらは今にも1つの大きな疑念の渦へと変わりつつあった。
麻由香とは学生時代からの付き合いで、所謂、永すぎた春、と言う関係なのかも知れないが、愛が冷めたと言う表現を祐市は好まない。
恋愛感情とは、元来熱いものである。
しかし、その高熱状態をいつまでも維持継続出来る訳でもなく、当然の事ながら限界がある。
つまり、その熱くなった感情が長い年月を経て平熱に戻っただけの事なのだ。
しかもその成り行きを黙って見ていた訳ではなく、祐市は曾て強く愛し合ったと言う記憶の中で無意識に麻由香への愛の再確認、再構築を繰り返して来た。
そして、それはその都度、麻由香にも受け入れられた。
スケールダウンした部分は、大人の恋と言う言葉で補充された。
冷静さ、落ち着き、大人の恋、これらと同一線上にあるのが、冷めた愛である。
何処までが大人の恋として認知され、何処からが冷めた愛だと批難されなければならないのか、その境界線が知りたいものだ、と祐市は思う。
「怒ってるの?」唐突に麻由香が訊いて来た。
自分の告白に対し祐市が何も応えようとしない事への苛立ちが、その口調から読み取れる。
「あ、いや怒ってる訳じゃないんだ」祐市はふと我に返った様子で応える「ただ正直に言うと、随分と驚かされた」
祐市の口調が思いの外、穏やかだったため麻由香の苛立ちに拍車が掛かった。
しかし、それ以上に「何故?」と言う疑問の大波が、時間差で麻由香の心を揺らし始めた。
動揺はやがて不安に変わる。
「驚いてる風には見えないわ」胸の裡を悟られまいとする意識が強過ぎたのか、麻由香はぞんざいに言い放つ「まるで他人事みたいよ」
そして後悔した。
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