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麻由香のその言葉にも、祐市は表情一つ変える事はなかった。
いや、表情が変わらないと言うよりも、寧ろ無表情なのだ。
そんな祐市を見ていると、麻由香の裡で様々な想いが交錯するのだが、先ほどと同様に全ての感情を不安と言う大波が呑み込んだ。
そして、無関心ほど悲しい仕打ちはないと言う事を知った。
せめて怒りでもいいから感情を見せて欲しいと切に願った。
「ごめんなさい」麻由香も努めて冷静な口調で言う「こんな話を突然聞かされて、驚くのも当たり前ね」
祐市の横顔に変化はない。
「私達の事を知った上でのお話だったので、二人の問題だと思って話したの」麻由香は続けて言う「杳介さんには、明日にでも断りの電話を入れておくわ」
麻由香は意図的に境さん、ではなく、杳介さんと下の名前で呼んだ。
一寸の沈黙の後、祐市はおもむろに麻由香の方へと向き直ると「俺も全く同じ事を考えてた」と言う。
表情は極めて真剣である。
「同じ事って何?」
「だから無下に断るもんじゃない」祐市は麻由香の言葉が聞こえていないかのように続けて言う「少なくとも俺の意見を挟むのはフェアではない」
「祐市、言ってる意味が分からないよ」麻由香は動揺を隠して訊いた「フェアじゃないって、あなたと杳…いや、境さんが対等な訳ないじゃない」
祐市は言いかけた言葉を飲み込むと、そのまま麻由香を見つめた。
「祐市、大丈夫なの?」麻由香が不安気に尋ねる「私が境さんの話をしたのが良くなかったの?」
この時、麻由香には祐市の目が僅かに潤んで見えた
「杳介とは同期入社の同い年、何でも話せる仲だ」その目で見つめたまま、祐市は呟く様に言った
「でも親友ではない」
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