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この半ば謀反とも呼べるイェリスの言葉に対して、母は意外なほど冷静だった。
「分かったわ、イェリス」母の口調は穏やかだった「あなたは、あなたの意思であなたの人生を歩きなさい。いえ、歩けばいいわ」
母は悲しそうとも苦しそうとも取れる表情で、イェリスを見つめた。
「でも、今はまだ駄目よ。経済的にも完全に独立してからの話よ」と母は続けて言うと、少しおどけた表情を見せて笑った。
その時、イェリスは自身の記憶の奥底に眠っていた遠い昔の母に、邂逅した様な奇妙な感覚に捕らわれた。
懐かしい、と言う感覚だけが強く刺激されている。
記憶などいい加減なものだとイェリスは思った。
記憶が主観である以上、正確な記憶などあり得ないと言う訳だ。
イェリスが黙ったままでいると、母が尚も続けた
「あなたの年頃には、夢を見るものね」母の瞳が潤んで見えた
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