第1話 眠りの迷宮

6/44
前へ
/60ページ
次へ
この半ば謀反とも呼べるイェリスの言葉に対して、母は意外なほど冷静だった。 「分かったわ、イェリス」母の口調は穏やかだった「あなたは、あなたの意思であなたの人生を歩きなさい。いえ、歩けばいいわ」 母は悲しそうとも苦しそうとも取れる表情で、イェリスを見つめた。 「でも、今はまだ駄目よ。経済的にも完全に独立してからの話よ」と母は続けて言うと、少しおどけた表情を見せて笑った。 その時、イェリスは自身の記憶の奥底に眠っていた遠い昔の母に、邂逅した様な奇妙な感覚に捕らわれた。 懐かしい、と言う感覚だけが強く刺激されている。 記憶などいい加減なものだとイェリスは思った。 記憶が主観である以上、正確な記憶などあり得ないと言う訳だ。 イェリスが黙ったままでいると、母が尚も続けた 「あなたの年頃には、夢を見るものね」母の瞳が潤んで見えた
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加