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車内灯を消して走るバスの中は、低い天井に覆われている分、外よりも暗かった
そして、今、窓の外の世界が少しずつ朝の顔へと変わってゆく中、一際暗かったバスの客席にも徐々にではあるが、その気配が仄かな明るさを伴って伝わって来ていた。
静かに、そして誰一人として規律を破る事なく起きてゆく、その姿にイェリスは新たな驚きと、感慨を覚えた。
確かに、嫌な思いもしたが、それでも父の国の印象が悪くなる事は一切なかった。
それだけでも、来て良かったじゃない、と彼女は思わず小声で独り言ちる。
それが間違いだった。
声を出す事が胸に鬱々と溜まった思いの発露となると分かると、彼女の意思とは無関係にそれまで封印していた思いが、一度に出口に殺到した。
一気に胸が高鳴り、息がつまる。
大きな瞳にみるみる涙が溜まる。
イェリスは咄嗟に右手で嗚咽が漏れない様に口元を塞いだ
首を不自然なまでに左に向かせ、頬の涙に気付かれない様にと、窓に額を押し付けて、そのまま暫く外を見ていた。
夜明け前、バスは徐々に中心街へと入って行くところだった。
街は、既に、朝に向けてリセットされている様に、イェリスの目には映っていた。
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