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街の中心が近づいて来たのだろう、川の向かいにもあちらこちらに高層ビルが目立つ様になって来た。
と同時に、それ以外の建物も各々が生命を持ち、狭い敷地の中で上へ上へと、ひしめき合って伸びて行こうとしている様に見える。
しかも統率を乱す事なく。
そして、その無数の生命の集合体がこの街であり、その無限の活力の結晶体がこの街の持つ躍動感となっている。
延いては、こうして生まれる力こそ、この静かな人々の国が持っている強さではなかろうか
この国の強さはバランスの取れた総合力に違いない
イェリスは窓外の景色を見ながら、そんな事を思っていた
頬を伝った涙の訳には触れる事なく
イェリスが反旗を翻したあの夜から、意外な事に母親の機嫌がずっといい。
それは、娘の成長を喜んでの事なのか、それとも逆に子供の言う事など、どうにでもなると、イェリスの言葉を軽んじての事なのか、それは誰にも分からなかった。
そんな中、当然の事ながらイェリスの心中にも変化が起こる事となる
それは言う迄もなく、母への思いである。
しかし自分の生い立ちに関する不満、憤り等を、全て母親にぶつけて来た事に対して、罪悪感とか後悔の念を持ったと言う訳ではなかった。
ただ、悲しそうな表情の母親を思い浮かべると、心の片隅にチクリと刺す様な痛みを感じるのだ。
その程度の僅かな痛みではあったが、長い年月をかけて凍ってしまった心を、少しずつ溶かして行った。
深夜、人の気配がするので
イェリスが恐る恐る居間のドアを開けると、暗い中、奥のキッチンの窓から母親がぼんやりと外を見ていた。
イェリスがこんな風に感じるのも妙な話だが、月明かりに照らし出された母は美しかった。
そして、悲し気だった
そのまま、そっとベッドに戻ったイェリスはなかなか寝付けなかった。
目を閉じると、先程見たばかりの悲し気な母の横顔が浮かぶ
そして、その表情が少しずつ歪んで行く
胸が疼いて、疼いて、やっと我に返る
そして目を閉じると、また同じ事が繰り返される
朝方になって漸く眠りに就いたイェリスの枕には、涙の跡が残っていた。
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