ぬるま湯と生存

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 先生は隣に居た僕のシャツを掴んで、僕を盾にした。下方向に軌道修正されたナイフが僕の首をざっくりと切った。血がダラダラと流れる。生暖かい液が肌を伝っていく感覚が気持ち悪い。手を当ててみると手の平が真っ赤だった。そして痛い事に気付く。なんで僕が。なんで僕が。なんで僕が。先生とAはそんな事どうでも良いように睨み合っている。面倒な反撃をした事、その攻撃を避けらた事に更にイライラしているようだ。今度は次の攻撃に備えて、先生が先に防御を仕掛けた。つまり、再び僕を盾に使った。  僕には抵抗なんて出来ない。ただ状況に流されて、それでも最小限の被害で済む生き方で大人しく生きて行くしか出来ない。先生に引っ張られるままに立ち上がった。シャツもじっとりと赤くなっている。  先生は嬉しそうで、楽しそうだった。やっぱり、僕が一番嫌いだったんじゃないか。コイツさえ自分のクラスに居なければって思ってたんだろ? 平和なクラスに大人しい子なんて居なければって。だから先生も僕が何の脅しにならない事は知っている。Aが同級生を刺すのが怖くなったり、躊躇したりしない奴だって知ってる。僕は二人の腹いせに殺される。  それで良いのか? 本当に良いのか? 殺されるとか死ぬとかは良いとして、こんな馬鹿二人のこんなくだらない喧嘩に巻き込まれて死ぬのか? こんな奴等より早く死ぬのか?  そう頭に過った瞬間、向かって来るAのナイフに自分から飛び込んだ。狂った人間はAでも怖いのだろう。きっと狂った人間の反撃が一番怖いのを知っていたのだろう。Aは一瞬手を止めた。しかし僕はナイフに向かって行く。両手でナイフの刃を掴んで、Aからもぎ取った。血塗れの手で必死に引き抜こうとしている僕が怖かったのだろう。Aの力はそんなに強くなかった。素早く柄に持ち替え、僕は体当たりでAの腹部にナイフを深く刺した。  僕は殺人をした。殺人は一番悪い事だ。僕は悪い人間か? 不思議な事に、全く罪悪感は無かった。害虫駆除と同じ感覚がした。楽しそうなシャッター音が大量に鳴っている。
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