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理不尽は日常的に存在していても、大きな塊になって攻撃してくる時が、きっと一生に何回もあるだろう。何十回も、何百回も。
いつも通りの授業風景。荒れた教室、汚い床。先生。一人だけ授業を聴く僕。僕はいつも通り、先生に対処を求めた。なんで僕は気付かなかったのだろう。いや、中学二年生に、そんなに興味の無い人間の変化に気付けと言うのが無理だ。
いつも通り先生はAに近付くと、Aを平出で殴ったのだ。後から聞くと、先生は男に振られてイライラしていたらしい。なんでも遊びの関係がもつれたとかなんとか。長い黒髪の淑やかな先生――のイメージを信じていた生徒が何人居たかはともかく、同僚の先生達は意外だと言っていた。
僕は先生の顔なんて見ていなかった。その時には先生に視線を向ける振りをしていつも通り板書を取っていた。それはいつも通りの僕だったし、そんな僕の「いつも」を先生も知っていた。ただ先生に面倒事の処理を押し付けている生徒、教師の事なんて尊敬も、寧ろなんとも思っていない生徒。自分を一つの駒のように利用する生意気な生徒。そう思っていただろうな。なのに殴ったのは僕ではなかった。「先生を舐めるな」と僕を殴れば良かったのに。いつもは僕の机に駄菓子を置く先生が、僕の横を通り過ぎたのに気が付いたのは、パアン! と大きな音が教室に響いて、その後に騒がしい教室が気持ち悪いぐらい静かになった時だった。
いつものガヤガヤした雑音が消えて、一斉に動きを止めた生徒達は僕の後ろの席を見つめている。この学校では、どんなに生徒が悪行や不良行為をしても手を出す所か怒る事もしなかった。軽く、形式的に注意を促すだけだ。挨拶のように。社交辞令の方が近いかも知れない。それだけに、いきなりの、初めての教師の反撃を体験した生徒達は皆驚いて、少しだけ大人を怖くなった。大人に怒られる事も忘れていた子供達だ。
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