ぬるま湯と生存

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 一瞬だけ怯んだが、教室は再び、いや前以上に盛り上がった。「W先生やるじゃーん」「キレイな顔が台無しー」「あーあ、言いつけちゃお。これアップするわ」生徒の殆どがスマートフォンを先生に向けた。面白がって取り囲んではいるが、当事者の二人には近付く気配は無い。そんな風景は先生の視界には入っていなかった。取り敢えず、ただ、イライラとストレスを発散したかっただけ。誰かにぶつけたかった。誰かを攻撃したかった。その欲求だけで動いていた。先生は今まで見せた事の無い歪んだ顔で、泣きながら、Aを罵倒した。ヒステリーの女性その物だった。 「お前が悪い! お前みたいな奴が居るから! 死ね! 死ね!」  一発目でビビっていたAに畳み掛けるように絶叫した。流石のAも引いていた。距離を取ろうと少し体を後ろに動かすと、素早く先生は二発目の平出打ちを喰らわせて動きを止めた。Aの髪を掴んで、激しく揺さぶりながら再び暴言を吐いた。  次の瞬間にAがキレた。「うるせー!」と、座ったまま乱暴に机を蹴り飛ばす。ガターン! バアン! と机の金属音が響いた。そのエンターテイメントも周りの生徒達は楽しんでいる。どうなるかと皆ワクワクしていた。この教室で二人だけが本気の感情で動いていた。先生も負けじと「うるせぇんだよ!」と倒れた机を蹴る。二回目の金属音が鳴った。頭に血が上っていた二人だが、Aの方が武器が多かった。慣れた手付きでポケットからナイフを取り出したかと思うと、既に先生の首を目がけてナイフを振り下ろしていた。立ち上がる動作を見逃していたくらいだ。  僕はこんな事どうでも良かった。早く授業に戻って欲しかった。しかし、黒板を写し終わった今はやる事が無い。半身だけ後ろに捩じって見ていた。それがいけなかったのか。それもでもダメだったのか。やっぱり、僕が一番悪かったからか。
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