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車が絶えず走り、人と人が行き交っていた。
人々の波に倣って俺も歩く。
目的は無いのだがこれが毎週土日の日課みたいなもんだ。
敷き詰められた赤や黄色の煉瓦の上をうるさい足音が響く。
その中で俺は腕時計を覗き込んだ。
午前10時35分。
確か俺が起きた時刻は母さんが起こしにくる8時20分の筈だ。
だとするともう2時間ちょい歩いた事になる。
カロリーをどれだけ消費したかはわからないが、朝から何もいれていない俺の胃は切なく叫んだ。
腹減ったなぁ。
そう思い、財布を尻のポケットから取り出した。
だけどわかってはいるんだ。金が無い事を。
それでも見てしまうのは俺の悲しい性である。
「南無三!」
黒の長方形が口を開き、中に手を入れる。
この手の感触は!
財布の中にある硬貨を勢い良く引き抜くと、恐る恐る顔の目の前に持ってきて固めた拳を解いた。
「……」
手のひらの上にのっていたコインの合計ーー。
「三十七円也……」
鼻水を吹き出しそうな可哀想な数字。
何買えって言うんだよ!
う◯い棒を三本買えってか?
俺の悶える様子を見て、笑いながら通りすがるカップル。
惨めだ。
バイトしなければ……ただのゴミニートになってしまう。
俺は長財布を尻のポケットに戻すとまた歩き出す。
一歩、足を動かした瞬間。
財布のチャックをちゃんと閉めていなかったのか小銭が甲高い音ともに煉瓦の上に散らばった。
あーめんどくせぇ。
俺はかがんでそれを拾いにかかる。
そこで銀色に光るコインを発見した。
「ん?」
こ、これは!
俺は小銭を手でつまみ視線の目の前に持ってきた。
表には桜の絵、裏には100という数字。
紛れもないこれは100円だ。
「おっしゃー!」
無意識のうちにガッツポーズを取りながら叫んでいた。
「……」
多少の笑い声が聞こえてやっとここが歩道だと気づいた俺は羞恥のあまりその場を離れた。
この時100円を拾わなければなんて微塵も思わず。
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